「一生幸福でいたければ、釣りを覚えよ」という古い中国のことわざがあるそうです(開高健「オーパ!」)。
釣りをしたことがない人にはぴんとこないかもしれませんが、ひとたび面白さを感じるとハマってしまうのが釣りなのです。
したことがない人にとっては、いろいろ道具が必要でハードルが高いと思ってしまう釣りですが、実はそんなことはありません。何を釣るかによって必要なものは変わりますが、最低限、まずは釣竿、あとはライフジャケット、クーラーボックス、椅子、長靴さえあれば釣りは始められるのです。
以前ご紹介したグランピングなどと組み合わせて楽しむのもいいでしょう。
今回は、忙しい会社員でもすぐに始められる、この釣りという趣味についてご紹介します。
最初に釣りとは何かを定義しておきましょう。
「釣り」とは、獲物を糸で釣ることからその名がありますが、定義的にいうと、移動する魚類をおびき出したり、待ち伏せしたりして捕まえる一種の罠による捕獲のことです。
魚類がいる海・川・湖沼・池などで行われ、場所によって海釣り・川釣り・磯釣りなどと呼ぶこともあります。場所ごと、狙う獲物の種類によって釣り方が異なりますが、次のような手順で行います。
言葉にするとこれだけですが、そのどこが楽しいのかを紹介してみましょう。
魚がエサに食いつき、その引きによって竿がブルブルとふるえる瞬間、人は普段は眠っている狩猟本能が呼び覚まされます。
釣りにかぎりませんが、狩猟とは相手との真剣勝負によって命を奪い、皮を剥ぎ、内臓を出して、血を洗い、骨と肉を外して、調理して、食し、自分の身体の一部にする行為です。これは太古から続く「命の原理」です。
釣りは、そのように、私たち自身が生き物であり、他の生き物から生命をもらって生きていることを実感させてくれます。
釣果(「ちょうか」と読みます。釣りの成果のこと)を左右するのは、まず技術です。初心者とベテランでは技術が違います。エサの巻き方、糸の角度や動かし方、タイミングなど、様々なことを覚え、スキルを磨く楽しさが釣りにはあります。
大物や、自分の狙っていた魚が釣れたときの喜びはひとしおです。釣りにハマる最大の理由がこれでしょう。
一番大きいのは天候。前日までの状況、時には当日の状況によっても海や川の中は変わります。どの時間・場所を選ぶか、どのように釣り糸を垂らすか。釣りは非常に戦略性がある趣味です。これぞという戦略が決まると釣りファンは高揚するようです。
釣りのイメージは、ただ単に竿を向けて釣り糸を垂らしている姿だと思います。退屈なんじゃないの?と思ってしまうくらい、釣れない時間の方が圧倒的に長いと言えます。しかし、じつは魚と静かな戦いをしているとも言えますし、待ちの状態でぼうっと考えごとにふけっているとも言えますし、自然を感じているとも言えます。釣れない時間には、多くの魅力があります。釣りが好きな方によれば、水の中の状況を考えたり、魚やエサの気配りなどをしていると、あっという間に時間が過ぎてしまうそうです。
「こんな魚を釣った」「俺のほうが大きい」「今日は何匹釣れた」「こんな作戦でみごと大物を釣った」など、釣り仲間との話は最高に面白いようです。好きな人同士で話をすることで、高揚感を感じさせてくれます。
釣り道具は、品揃えがよく、価格も安心できる大きい店で買うのがお勧めです。
小さいお店は地元の常連が対象のエサや消耗品が主体で、初心者用の釣り道具を揃えていないことが多く、敷居が高く感じてしまうかもしれません。大きな店には、釣り好きの若い店員もたくさんいますので、気軽に相談すれば、必ず力になってくれるはずです。
安い浮き釣りの竿なら3,000円ほどからありますし、リールで釣る場合でも、安いセットなら同じくらいで買えますので、一式全部揃えるための最低予算は5,000円ぐらいです。もちろん、高級品を買うとその30倍以上はかかります。
「初心者だから取りあえず安いやつで十分」
「安物は後で後悔するから初めからいいものを…」
などと、お店によっては逆のアドバイスをされかもしれません。どちらも間違いではありません。
凝り性な人なら、中級品以上でしっかりしたもの(一流メーカーの損害保険付きの竿)を選べば、長持ちして愛着も湧くでしょう。
遊べれば何でもいいと割り切れる人は、バーゲン品で十分です。メーカー品の型番落ちなどを狙えば賢い買い物ができます。
慣れてきたら、地元の専門店に行ってみましょう。こうした店は、常連客やマニアのサロンになっていることが多く、通いつめるうちにご主人と親しくなったり、釣り仲間ができるでしょう。沖釣り専門、淡水専門、フライショップなど、大手チェーンに負けない品揃えやハウツーを誇るお店もあります。マル秘ポイントなどの情報を交換したり、釣り談義を咲かせたりという楽しみもあります。
道具を揃えてしまえば釣り道具屋さんにはそう何度も行く必要はありませんが、エサ屋さんは釣りのたびに訪れることになります。ここでも思わぬ情報を教えてくれることがありますし、おまけしてくれることもあるかもしれません。
昔は釣りを始めるとなると、まず友人や先輩に手ほどきを受けて、だんだん慣れてきたら、専門書や釣り雑誌を買い込んで勉強したものです。今はインターネットが主流だと思います。
まず、インターネットで地域別の釣りサイトを探しましょう。いま・どこで・何が釣れるのかという詳しい情報を紹介しています。分らないことは掲示板やメールで相談すれば、親切に答えてくれます。
一口に釣りサイトといっても、個人のブログ等まで含めれば大変な数がありますが、大体、次のように分類できるでしょう。
中には、プロの釣りの本並みに内容が充実したサイトもあったり、思いのつまった味のあるサイトもありますので、ぜひ、好みの行きつけのサイトを探してみてください。
インターネット以外では、釣り新聞や、釣り雑誌もたくさんありますが、インターネットにくらべれば即時性はなく、情報もスポンサーに左右されますので注意してください。TVの釣り番組などは、編集されていたり、番組用に業者から便宜を図ってもらっていることもありますので、これも間に受けすぎるのは危険です。
また、専門家が知恵と技を出し合って作っている釣りの本もたくさん出版されています。写真や図解も充実しており、技や知識を体系的に教えてくれている良書を手に入れるのもお勧めです。
釣りといえば、まずは海釣りと川釣りに分かれますよね。初心者はどちらの釣りがいいのでしょうか。
もちろん、住んでいる場所が海と川のどちらに近いかということにもよります。
川、湖、沼、池に住む淡水魚と、海に住む海水魚とでは、体の仕組みが異なります。海水魚の方が淡水魚よりも大きいことが多く、淡水魚は繊細で、釣るためのテクニックが必要です。
釣りの難しさは、狙う魚の種類や釣り方によって変わります。
海釣りではルアーや生き餌を使いますが、川釣りにはフライフィッシングなどの釣り方になります。これは「毛針」と呼ばれる独特の軽い針を使った釣り方で、専用のロッドやラインを使った釣りです。フライフィッシングは海釣りでは経験することのできない釣り方なので、川釣りの魅力の1つになっています。
同じ魚でも、浮き釣りで釣るのか、リールで釣るのかなど、釣り方がよって、必要な道具も変わります。
海釣りの場合は、仕掛けも竿も貸してくれて、魚探をつけた釣り船で釣れるポイントに連れていってくれる釣り船を利用すれば、始めやすいと言えます。
魚屋さんに売っている鯛やブリ、マグロ、アジなどの海の魚は、食べる機会が多いので、川魚よりも身近に感じるかもしれません。おいしい魚が釣りたいからという理由で海釣りから始める人も多いようです。
入門編としては「サビキ釣り」(竿の下部に付けたカゴを海へ投入し、下カゴに入れたマキエで魚を集め、「サビキ」のいう擬餌バリで魚を釣る方法です)などがお勧めです。サビキではアジ、イワシなどが釣れます。釣り具屋さんでサビキ用のセットを買えばすぐにできます。
道具一式を揃えて、はりきって早朝から釣りに行ったものの、想像していたものと違っていたのか、面白さを実感できずに、やめてしまう人もいます。
道具を揃える前に一度、海釣り公園などで釣り体験をしてみるのがいいでしょう。
海釣り公園というのは、海にあらかじめ魚を集めてくれている場所です。入場料がかかりますが、初心者でも釣りやすいと言われています。
また、海釣りなどは豪快で楽しい反面、海特有の危険があることをお忘れなく。夜釣りの堤防から落ちたり、船から落ちたりすることもあり得ます。潮の流れであっというまに沖に流されることもあります。川釣りでも、川の中で転んだり、深みに入って流され、パニックで水を飲んで溺れてしまうこともあります。
毎年、釣り人の遭難事故が頻発しています。気象・海象に関する基礎知識がなかったり、海の危険を知らない無謀な行動、不注意と油断などが原因です。事前の準備をしっかりと行い、水場の危険に十分注意を払いながら、釣りを楽しんでください。